【案内人ブログ】No.30(2019年9月)

絵本三題

綾子さんの著書『道ありき』は三浦文学の原点である。5年前、『道ありき』ゆかりの地、旭川市春光台に文学碑が建てられた。『道ありき』の中で、綾子さんは「わたしの家庭は、本を買ってもらえるような環境にはなかった」と綴っている。私の場合も全く同様でましてや「絵本」とはほぼ無縁で70数年を生きてきた。

最近、メル友から柳田邦男著『生きる力絵本の力』を紹介された。3.11東日本大震災がらみで誕生した絵本『ハナミズキのみち』。悲しく辛い体験は、時が流れる中で、人々に新しい息づかいをもたらし、何か新しいものを生み出す。つまり、新しい生き方への決心や他者を思いやる気持ち、絆の大切さなどである。私はなるほどと納得した。絵本を手に取ってみた。ハナミズキ?私はこの花をよく知らなかった。アメリカの代表的な花木。花言葉=華やぐ心。若い人々には、一青窈の歌「ハナミズキ」が知られており、ウエディングソングとして人気が高い。が、この歌は単なる恋の歌ではない。元々は、9.11テロに際しての想いが楽曲の動機だったとか。

5月下旬、何気なく聞いたNHKラジオ深夜便「私のアート交遊録」では、絵本作家・真珠まりこ氏が出演していた。対談テーマは絵本『もったいないばあさん』。この対談のキーポイントは「ひと」「もの」「こころ」を大切にすることは、命を大切にすることであり、同時に「平和」を保つことにつながるという趣旨であった。至言であろう。
ちなみに、「もったいない」という日本語は、ノーベル平和賞受賞者ワーガリ・マータイ氏(ケニオア)が国連で「MOTTAINAI」として世界に紹介。史上最年少17歳で同賞を受賞したマララ・ユスフザイ氏(パキスタン)も「MOTTAINAI」精神を世界に発信している。日本の「もったいない」文化は今、世界に浸透しつつある。

綾子さんが描いた唯一の絵本『まっかなまっかな木』*。この本は、「(ぶん)三浦綾子、(え)岡本佳子」と共著である。三浦綾子記念文学館開館20周年を記念し、昨年復刻版が出版された。「あれ、なあに」「これ、なあに」と何にでもいだく好奇心、「それから?それから?」と執拗にたずねる探究心、この二つは子どもたちの専売特許。絵本を手に取ってみた。野原の向こうの一本のまっかな木。気になってしょうがない。1日目、川のさかなに出会って夢中。2日目、子りすに出会って夢中。3日目、ぴかぴか光るりんごの木にやっとたどりつく。岡本佳子さんは「優しい心をこめて描いた」と語っていた。ちなみに江別在住のメル友は「岡本佳子の小さな美術館」(札幌市豊平区福住)に行ってきたという。三浦綾子コーナー、坂本九コーナー、地蔵さんコーナー、きんさんぎんさんコーナーがあり、岡本親子は三浦綾子さんと深く付き合っていたことが分かったという。来札の折には案内すると言われているが、未だ実現せず現在に至っている。

旭川出身の作家・永江朗氏は「51歳からの読書術」というエッセイの中で、「絵本のいいところは、絵がきれいで、文章が少ないことだ。しかも平易な言葉で書かれている。難しい漢字も使われていない。文章が少ないので、そのぶん、いろいろと自分で想像したり考えたりする。作者が何から何まで説明する大人向けの読み物よりも、そうした言葉の空白みたいなものが多い子ども向けの本のほうが、イマジネーションが広がる」と読書の心得をアピールしている。

以上、とりとめのないことを書き連ねてきましたが、みなさんも機会があれば絵本を手に取ってひととき童心に返ってみませんか?新しい発見があるかもしれません。

*『まっかなまっかな木』……綾子の唯一の童話で小学館「おひさま」1975年1月号に掲載された。2002年4月、北海道新聞社より絵本として出版された。

by三浦文学案内人 森敏雄

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